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札幌高等裁判所 昭和61年(く)32号 決定

少年 I・N(昭45.7.13生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告申立の趣旨及び理由は、少年の法定代理人である親権者母の提出した昭和61年11月18日付け抗告申立書に記載されたとおりであり、その論旨は、必ずしも趣旨明確でないところも見られるが、要するに、(1)少年を中等少年院に送致した原決定の処分は不当である、(2)処分の前提となる事実に重大な誤認がある、(3)原決定の手続には間違いがある、というのである。

そこで、関係記録を調査すると、原決定の認定する少年の「非行事実」及び「処遇の理由」の項において指摘された諸事実はすべてこれを肯認することができ、なお少年調査記録に現れた諸事情を合わせると、本件は、少年が、自宅で前後約6時間30分にわたりシンナー及び接着剤の混合物を吸入したという事案であるところ、少年は、中学1年生のころから喫煙や、不良交友が始まり、中学2年生の終わりころから急速にシンナーに溺れるようになるとともに、無断外泊を繰り返し、昭和61年1月末にはシンナーを吸入して、毒物及び劇物取締法違反により補導されたが、その後もシンナー吸入を止めようとせずに、ついには幻覚を見たり、肝臓を悪くするなどの症状が現れるほどになり、同年6月には保護観察の処分に付されたにもかかわらず、その僅か10日後に本件非行に及んだものであること、そして、その後一旦は食堂に就職したものの、1か月ほどで辞めて無為徒食の生活を始めたため、本件観護措置を取られるに至ったものであって、以上のような少年の非行歴、生活態度、少年の資質、性格上の問題点等を考慮すると、少年の非行性は急激に深化する兆を見せ、早急に保護手段を講ずる必要があると認められるところ、少年が7歳のとき両親が離婚し、親権者である母親に養育されて来たものであるが、原決定の指摘するとおり母親の精神状態は相当長期にわたって不安定であり、少年に対する有効適切な監護が期待し難く、このような保護環境の現状等をも併せ考慮すれば、その要保護性は高いと認められ、少年をこのまま放置すれば、再び非行に陥る可能性は極めて高く、その非行性を矯正するためには在宅保護の方法によって成果を期待することは困難であり、施設内における集中的専門的な矯正教育が必要と認められ、したがって、少年を中等少年院(一般短期処遇勧告付)に送致する旨言い渡した原決定の処分は相当であり、それが重すぎて著しく不当であるとはいえない。その他、記録を精査しても、原決定には、事実の誤認、審判手続の法令違反等の瑕疵は認められない。論旨は理由がない。

(なお、付言するに、本件抗告については、昭和61年11月12日になされた原決定に対して、少年の法定代理人である親権者母が、同月13日抗告の申立をし、翌14日には少年の同意のないまま、これを取り下げ、抗告申立期間内である同月18日に、再び本件抗告を申し立てたものであるが、少年法上の抗告手続に関しては、刑事訴訟法の上訴に関する諸規定が当然には準用ないし類推適用されず、保護処分の決定に対しては、法定代理人が少年とは独立に抗告を申し立てることができること(少年法32条参照)、法定代理人から抗告の申立があってもこれを少年本人に通知することが法定されておらず、また、実際上もこれが少年本人に通知されることはないことなどに鑑みると、法定代理人は、自ら申し立てた抗告を少年の同意の有無にかかわることなく取り下げることができ、抗告期間内であれば、再度抗告を申し立てることができるものと解される。したがって、少年の法定代理人である親権者母が昭和61年11月13日になした抗告の申立は、翌14日有効に取り下げられたものではあるが、抗告期間内である同月18日再度抗告の申立がなされたものである。)

よって、本件抗告は理由がないから、少年法33条1項後段、少年審判規則50条によりこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 水谷富茂人 裁判官 高木俊夫 平良木登規男)

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